シャーシーは、アルミの地肌そのままで塗装はしていない。 美川は、あえてそれを望んだ。 これを細かめのサンドペーパーで定規を当てて一方方向に真っすぐこすり、ヘアライン状にした後、水道水で洗い流し、すかさず良く水気を切ってガスの遠火で乾かして、無水アルコールで全体をムラ無く拭き、薄めたクリアラッカーを塗装し、完全には乾かないうちに再度ガスの遠火で炙ってラッカーをアルミに固定させ仕上げた・・これは少しコツを必要としたが巧くいった。 少年の頃の、おぼつかない光景が瞼に浮かび頬が自然と緩んだ。
部品の取り付けは穴あけ済みのため容易であったが、細かい所の修正が必要で、これを済ませ、いよいよ配線に取り掛かる。 懐かしい五球スーパーの外観の再現に、美川は、しばらく無言で見つめていた。
実体図が出来ているから、これを参考にしつつ配線図どおりに作業を進めた。 まずヒーター配線を済ませ、アース線、その他のワイヤー配線を五色方に従って順次進め、最後に C・R 類をハンダ付けして完了させたが、美川はゆっくりと時間をかけて丁重な作業を楽しんだ。 少年の頃をたどるがごとく・・・・・。
配線作業は二日程で済み、細部の調整や部品変更、形どおりの三点トラッキング調整も終わり、念願の五球スーパーは快調なラジオ放送音を奏でている。 予想外であったのは ジャンク品が大半にもかかわらず大きなトラブルも発生せず、又、ダイヤル表示周波数とトラッキング調整完了後の指針の位置がそれほど違わなかった事であった。
それと、回路を追加変更した所があって、 AM放送のプリエンファシスに対応すべく、検波後の高域周波数を 3KHZ 位から減衰させたことである。